2024年度の診療報酬改定では、「医療機能に応じた入院医療の評価」をポイントとして見直された中で、「高齢者救急への対応」が柱となり、地域包括医療病棟が新設されました。地域包括医療病棟とは、これまで高度急性期や急性期病床が対応してきた軽症・中等症の高齢者救急の受け皿となる病棟です。
天草圏域内で急性期医療を提供している当院も、高齢者の救急患者は多いため、地域包括医療病棟への変更が可能ではないかと、準備をし、2024年9月から算定を開始しています。ちなみに、グループ病院で算定しているのは57病院中2病院のみです。 開始に至るまでには、様々な条件をクリアする必要があり、まずは実績つくりのために体制を整えることや、情報収集を行い、関係部署と話し合いを重ねました。この度、関係部署が、地域包括医療病棟の変化への対応、それに伴い良かったことなど、報告してもらいます。
担当病棟看護師長から(看護師長 丸井美紀)
地域包括医療病棟の病棟看護師長として病床届け出を変更するにあたって、どのような取り組みをしたか紹介いたします。まず、地域包括医療病棟への届け出をするにあたり、下記の表のように、様々な施設基準があることを紹介いたしいます。
全員に入棟後48時間以内にADL・栄養状態・口腔状態の評価を実施し、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理にかかる計画書の作成 |
看護職員配置10対1以上 |
平均在院日数21日以内(算定期間は90日以内) |
在宅復帰率80%以上 |
自院一般病棟からの転棟(転入)患者の割合が5%未満 |
救急搬送患者の割合が15%以上 |
救急搬送患者の24時間受け入れ体制 |
病棟に常勤理学療法士・作業療法士を2名以上配置 |
病棟専任の常勤の管理栄養士1名以上を配置 |
そのため、まずは病棟職員に対し地域包括医療病棟とは何かを学ぶことから始め、病棟で勉強会を、スタッフ全員が参加するまで行いました。その後は、入院時、新たに取り入れた「ADL・栄養状態・口腔状態の評価」や「リハビリテーション・栄養管理・口腔管理に係る計画書作成」を、習慣化するまで繰り返し声掛けを行いました。
当病棟は、ベッド数60床、主に整形外科・外科・歯科口腔外科の患者様を受け入れています。天草圏域内は高齢夫婦や独居の方が多く、自宅退院が難しい方、介護保険を持っていなく介護保険の申請が必要な方もいらっしゃいます。そこで、整形外科では医師・薬剤師・栄養士・リハビリ・病棟看護師・地域連携室・訪問看護師が毎週カンファレンスを行い、情報の共有と方向性の確認を行うようにしています。
導入後、管理上日々注意して行っていることは、平均在院日数21日以内の維持です。入退院の調整が難しく、独居や高齢世帯は退院許可が出ても、すぐ自宅へ退院することが困難な方も多く、地域連携室のスタッフと毎日のように話し合いを行い、家族への連絡も頻回に行うようにしています。主治医からも今の状態を家族にその都度説明をし、退院可能であることをご理解してもらっています。
また、在宅復帰率80%以上を確保するため、回復期病棟への転院を促すか家族の方やケアマネジャーに来て頂くようにしています。直接リハビリ状況を見てもらうことでどのようなサービスが必要かケアマネジャーや家族と共に話し合いの場を設けています。 地域包括医療病棟は医師・薬剤師・栄養士・リハビリ・病棟看護師・地域連携室・訪問看護師が一丸となり、患者様のため、それぞれの役割や立場で関わっていくことが大切であることを、再認識させていただき、看護管理者としての学びは大きかったです。
患者様の退院支援を実施している地域医療連携室から(看護師 岡部由紀)
地域医療連携室では、平均在院日数21日以内、在宅復帰率80%以上を達成すべく、入退院支援に取り組んでいます。院内の多職種と連携して、定期的なカンファレンスを行い、治療・リハビリの進捗状況、今後の方向性について協議しています。また、介護保険の認定を受けている場合は、ケアマネジャーや地域包括支援センターと連携を強化し、早期の情報共有、退院前カンファレンスを実施して、患者・家族が退院後も安心して療養生活を継続できるよう支援しています。その中でも患者の意思決定支援は特に重要であり、在宅療養は難しいのではないかと思われた方でも、介護サービスをうまく活用し、外来で元気そうな姿を見るととてもやりがいを感じます。
在宅復帰率は、地域包括医療病棟が開始されてから平均約86%で経過しています。この病棟からの退院先で在宅復帰に含まれる転院・転所には、回復期リハビリテーション病棟、介護老人保健施設の超強化型、有床診療所があります。骨折の手術後でリハビリが長期に必要な方は、リハビリに特化した回復期リハビリテーション病棟への転院を勧めています。また、当院の超強化型付属老健は、連携が図りやすいこともあり当院の強みになっています。薬価やコロナワクチン接種歴など入所基準を満たす必要はありますが、介護保険の要介護1以上の認定がある方は入所の検討をしていただいています。
当病棟に救急搬送される患者様は後期高齢者から超高齢者が多く、認知症、家族が遠方に住む独居の方、身寄りがない方、障害がある方、権利擁護や成年後見制度の対象者など問題が山積みです。最近では、認知症があっても、海外に居住している家族がカメラを使用し見守られながら独居生活を送っている患者様が、転倒し骨折して救急搬送され手術を行った症例が2件続きました。術後、病状は安定しても長期的なリハビリが必要で、独居生活の継続は困難な状況となり、療養型病院へ転院する方針となりました。家族は来院困難な状況下で、日本にいる親戚には頼りたくないという家族の思いがあり、転院先で何かあった場合の身元引受人をどうするか、金銭管理や入院費の支払いをどうするのか、転院方法など家族や転院先と幾度となく連絡をとり合い、やりとりに難渋した症例でした。 これからも、患者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、患者・家族に寄り添いながら入退院支援を行っていきたいと思います。
救急入院を受け入れる外来看護師長から(看護師長 宮川まゆみ)
外来看護師長の立場から、地域包括医療病棟が適切に運用されるための支援についてご報告いたします。まず、外来では地域包括病棟の要件クリアの為に、事前に作成された入院病床決定のためのチェックリストを活用し、実績つくりを行いました。入院前は「自宅からか、施設からか、医療機関からか」等の情報、来院方法や重症度、医療・看護必要度B項目の「患者の状態等」の3点以上など、入院決定の参考資料として診療科や疾患などを元に入院調整を行いました。迷ったときは病棟師長、看護部長や副看護部長へ相談し入院病棟を検討しました。整形外科の緊急入院が多くなると空床が少なくなり、入院病棟を迷うこともありましたが、スムーズな入院ができるように毎日のベッドコントロール会議や退院調整により空床が確保できるようになりました。現在では、診療科や入院期間を確認し、迷わず入院病棟の決定ができるようになり、日常化してきています。
リハビリ部門より(リハビリテーション部リハビリテーション士長 米倉正博 )
リハビリテーション科では、新たな地域包括医療病棟の施設基準のとして、大きな変化として365日リハビリテーションが提供できるようになりました。
これにより、以前は土・日曜日や祝日などの連休でリハビリテーション訓練が休みの際は、日々のリハビリテーションで獲得した能力が後退する事がありました。今回、新設されたことにより、毎日リハビリテーションが行えることで、獲得した能力を効果的に持続させ向上させる事が行い易くなり、個々の患者様に応じた方法で、起き上がり動作やトイレ動作などの身の回り動作が速やかに獲得でき易くなっています。この様な、日々のリハビリテーションの積み重ねによって、歩行能力や生活動作能力を習得していただき、自宅や生活の場への復帰へ速やかに繋げられるようになっています。
また、金・土曜日に手術した患者さんでも術後翌日からベッド上でリハビリテーション訓練が行われるようになりました。手術後は寝たままとなり全身的に体力が衰え易くなりますが、翌日よりリハビリテーションを行う事で体力低下の予防、関節・筋肉の強張り軽減、認知症進行の予防への関わりが行えるようになりました。
この様に、リハビリテーション担当者が休みでも、代わりのリハビリテーション訓練士(理学療法士・作業療法士)がお互いにサポートし継続的にリハビリテーションを進めています。当病棟には20歳代のリハビリテーション訓練士も在籍していますが、訓練状況や能力向上状況をお互いに確認し補完し合うことで、リハビリテーションの質を保ち、より充実したリハビリテーションが提供できるように努めています。
一方、ご家族の面会においては、仕事や遠方からの来院のため土・日曜日(面会時間帯14時~16時)に多い場合もあり、今まではご家族とお会いできる機会が少ない状況でした。今では、土・日曜日のリハビリテーション訓練を実施している事で、スケジュールが合えば訓練状況の見学や説明が行える機会が増えてきています。患者様の状況等が解れば、自宅や転院・施設などの転機に向けた準備が行いやすくなっている様です。我々においてもより具体的な目標設定が行え、訓練内容の調整・見直しの機会にもなっています。 今後も当病棟の特性を活かしたリハビリテーションを提供し、患者様やご家族の期待に応えられるように、リハビリテーションの充実に努めていきたいと思います。
栄養管理の立場から(栄養管理室 管理栄養士 野島倫子)
栄養面で担当している管理栄養士の立場からご報告いたします。この度の改定は、栄養管理体制の基準を明確化する見直しが行われました。栄養管理手順に「標準的な栄養スクリーニングを含む栄養状態の評価」が位置づけられ、栄養スクリーニングにおいて低リスクありの場合、GLIM基準を活用することが望ましいとされ、その基準を用いた栄養管理を行っています。
地域包括医療病棟に入院される全患者に対し、65歳未満の方には(MUST)、65歳以上の高齢者には(MNA-SF)を用いて病棟看護師が栄養スクリーニングを実施し、栄養リスクの症例を抽出、その結果を基にGLIM基準による栄養アセスメントを担当栄養士が行っています。GLM基準を用いた低栄養診断の筋肉量の低下は下肢周囲長を用いて行っているため、問診に加えて必要時は身体計測を行い、低栄養の診断に至っています。
運用開始後、看護師によるスクリーニングが上手く浸透するまでは時間を要しましたが、最近では比較的スムーズに運用でき、スクリーニング→GLIM基準判定→計画書作成の流れが整うようになりました。
GLIM基準を用いた栄養管理を開始し感じることは、入院時、中等度または重度の低栄養と診断された患者は入院時より栄養状態の低下があるにも関わらず、入院や手術を機に更なる栄養状態の低下や経口摂取量の低下、嚥下時状態の低下を認めてしまうことが多くいことです。これまでも他のツールを用いてアセスメント等行ってきましたが、GLIM基準を用いることで的確な低栄養の診断に繋がっているように思います。またモニタリングに関してもリスクに応じた再評価者が明確になったと思います。まだまだGLIM基準を正しく理解し上手く活用できているかの不安はありますが、栄養管理体制の充実と実践効果の向上のために専任栄養士としてよりよい栄養管理に努めていきたいと思います。
各部署、様々な学びがあり、今後も一丸となって頑張ってまいります。