院長 芳賀克夫
3月10日当院でも新型コロナウイルスのワクチン接種を開始しました。これは一般国民よりも先に行われる医療従事者向けの優先接種です。3月8日に宇治徳洲会病院がインスリン皮下注射用の注射器を使用すると、ワクチン1瓶から7回接種することができるとの報道がなされました。本来このワクチンは1瓶に2.25mLの溶液が入っており、1回0.3mL接種するのですが、通常の注射器では溶液が注射器内に残るので、1瓶から5回分しか採取することができません。しかし、インスリン皮下注用の注射器は溶液が注射器内に残らないので、7回分採取することができるのです。ただし、通常の注射器の針の長さは25mmなのに対して、インスリン用注射器は針の長さが13mmと短いので、皮下脂肪の厚い方にはこの注射器は使用できません。
当院では、宇治徳洲会病院に倣って、接種対象者全員にエコー検査を行い、上腕の皮下脂肪の厚さを計測し、10mm未満の方にはインスリン皮下注用の注射器を使用し、10mm以上の方には通常の注射器を使用することにしました。この日は8瓶のワクチンを使用しました。通常の注射器だけを使った場合は、8瓶×5回で40人にしかワクチンを接種できません。しかし、我々はインスリン用注射器を併用することにより、55人の方に接種することができました。つまり、55÷40=1.375で、対象者を38%増やすことができたのです。対象者55人の中で、皮下脂肪の厚さが10mm以上だった方は5人だけでした。エコー検査に要する時間は短く、1~5秒で終わります。筋肉注射も、問題なく実施できました。案ずるより産むが易しです。
昨今新型コロナウイルスワクチンの供給不足が世界中で問題となっています。今回のインスリン用注射器を使用する方法は、ワクチン不足を解消する有効な手段と言えます。日本人は欧米人と比べて皮下脂肪が薄いので、この方法は有効です。より多くの病院が本法を取り入れ、国民の皆様が1日でも早く接種できるようになることを願っています。