「AIと消化器内視鏡」
消化器内科診療部長 岩澤 秀
食の西洋化が進むとともに、大腸癌(結腸+直腸)の罹患率・死亡率ともに増加してきています。2017年男女合計での大腸癌罹患率は癌の中で第一位、2019年の男女合計の死亡率は肺癌に次いで第二位です。近年、増加している癌であり、決して見過ごすことのできない疾病です。
大腸癌は、正常粘膜から腺腫(良性腫瘍)が生じて、それが悪性化して癌になる場合と、腺腫を経ずに一気に癌になる場合があります。癌になる可能性があるものを腫瘍性ポリープ(腺腫)といい、癌になることがないものを非腫瘍性ポリープといいます。したがって、腺腫となった後に大腸癌になるものについては、腺腫の段階で取り除いてしまうことで大腸癌の予防になります。
米国の大規模研究では、内視鏡で発見された腫瘍性ポリープを積極的に切除することで大腸癌死亡を抑制できるという報告が出されています。大腸癌死亡数の減少のためには、精度の高い内視鏡検査が必要ですが、通常の大腸内視鏡検査では20%程度の腫瘍性病変の見逃しがあるとされています。また、腫瘍発見率が1%向上すると、大腸癌は3%減少する可能性があるという報告もあります。主要発見率が上昇し、腫瘍性ポリープ切除数が上昇すれば、大腸癌の抑制につながるわけです。
腫瘍発見率ですが、術者の熟練度や観察条件などによってばらつきがあることは、以前から指摘されており、精度向上を目指した様々な取り組みが行われています。例えば、画像協調システム(粘膜表面の色調の違いを強調するLCI:Linked Color Imageや、粘膜表面の微細な血管や構造を強調するBLI:Blue Light Imaging)を搭載した消化器内視鏡が開発され、普及が進んでいます。白色光に比べ、腫瘍発見率は有意に向上しています。さらに、近年、AI技術の進歩とともに、Deep Learningを設計に用いたコンピューター診断支援機能システムが開発され、実臨床の場においても活用できるようになってきています。
当院でも、腫瘍発見率の向上の必要性を感じ、2021年10月から、AI技術による診断支援ソフトを導入し、大腸内視鏡検査で活用を始めました。
AI画像診断支援システムは、病変検出支援機能と疾患鑑別機能に分かれています。前者では、白色光やLCIモードでポリープを疑う病変を検出すると、報知音が鳴るとともに疑い病変部に青い検出ボックスを視認できるようになります。後者では、BLIモードに切り替えると、腫瘍性病変と非腫瘍性病変を色で識別して知らせてくれます。また、検出支援モードの感度は96%、鑑別支援モードの正診率は94.9%であり、エキスパート医師と同等の信頼性が担保されています。
このたび、導入したばかりのAI画像診断支援システムを十分に活用して、医師とAI画像診断支援システムとのダブルチェックを行い、腫瘍発見率をすこしでも向上させ、大腸癌の予防に大いに貢献したいと思っております。